伊藤さん一家


 中津川に、彼が東京に住んでいた頃にお仕事で言葉に尽くせぬほど、とてもお世話になった伊藤さんという友人が住んでいる。その彼が、引っ越しをし、さらに田舎に引っ込んで木曽川の上流に流れ込む川上川の中流、川上村の新しいお家に引っ越しをしたというので、下呂温泉まで行っていたこともあり、さっそく尋ねることにした。下呂から中津川までは一日に数本のバスが出ており、普通のバスの最後の便に乗る事が出来たが、約90分の各駅停車のバスの旅はとても新鮮だった。
 下呂から舞台峠をこえて、川上村まで、村と村の間はバイパスやら国道を通るのだが、村や町に入ると、代表的な施設を核にかなり狭い道を走り抜ける。大根なんかをほしてある農家の軒先なんかも通るので、手を伸ばしたら失敬出来そうだ。緑深く、柔らかな稜線が特徴的な(多分地質的に見ても古い山並みなんだろうが)山と谷を越え、付知川、川上川にそって景色を堪能していると、あっという間に川上村に着いてしまった。
 さっそく近況報告やら、昔話をしながら、分厚い肉の塊や、みそずけの鳥肉をいも焼酎とバーべキューでいただく。3時間程するうちに雨が降ってきたので瑶子ちゃんや俊太郎君(伊藤さんのお子さん)にてつだってもらいながらダイニングに避難することになるのだが、この庭がきっちり止めれば自家用車7台から8台は止められると言うもの。これに二階建てのお家が付いてなんと家賃が¥32000だという。田舎はすごい。奥様のご自慢だとか。
 降ってきた雨のおかげで増水した川の水音が耳に残るが、二重になった窓を閉めると、もうなにも聞こえない。伊藤さんとは年が近いこともあり、おんなじような音楽遍歴を送っていたことが分かり、(赤い鳥や高石ともやに始まり、はっぴいえんどにはまりかけ、そこからブルーグラスを通り、マイルスディビスに行き着く。アガルタ、パンゲア東京公演はオンタイムで、ハービーハンコック-ウエザーリポートの処女航海がショックだったこと。ライブアンダーザスカイにどうやら二人とも行っていたこと。等々)深夜まで音楽を聴き、さらに懐かしさの深みにはまり、最後は“たそがれのビギン”-ちあきなおみ-や“さとうきび畑で”-森山良子-で〆るというどろよい状態だッた。私はこれで新宿の夜から数えて深酒三日目になる。
 翌日は快晴に恵まれ、いざ、竜神の滝に向かおうとした頃から、また大降りの雨が降ってきた。この地方はじつに天気の変化が早いのだそうだ。夕森山のふもとの竜神の滝は思っていたよりも懐が広く、力強い滝だ。CANON EOS 1Dsで写真を撮りながら、坂下まで送ってもらったが、名古屋までの列車には2時間ほど時間がいていたため、中津川まで送ってもらうことになった。
 ここからは馬込や妻籠まではもう一息だ。普段であったなら絶対にそこまで行くのだろうが、今回は気力、体力ともにアルコールと中部電塾で使い果たしてしまったようなので、見向きもせずに名古屋から新幹線に乗り込み、一路自宅に向かう。やっと帰りついたが、“久田”は旦那のいぬ間の遊びに出かけており、少し寂しい。長々とベッドに横たわり、今日こそはゆっくり眠ろうッと。