別れ


今日は李君のフェアウェルパーティ。少しの時間だったが、浅草を二人で散歩した。

李君というのは昨年、半年間ほど講師を務めた東京ビジュアルアーツの写真家の生徒だった子だ。名前からもわかるように韓国からの留学生。写真を勉強して換えるんだったラ、特にデジタル写真を覚えたいというのなら、実地がいちばんだ、とだましてロケに一緒に連れ出すようになって半年が過ぎた。最初は足手まといになってもいいから、見学させてあげよう、という程度の気持ちで連れていったのだが、自分がやるべき仕事を進んで探す態度、お客様に接する態度を見て気が変わった。見学なんてしているのはもったいないので、次の回からは私のメインアシスタントとして動いてもらう事にしたのだ。質問がやたらに多いのには少々閉口したが、自分を振り返ってみると、同じことをしている。

手を貸すつもりが、すっかりうちの仕事を手伝ってもらう結果になっていた。しかし、良いことはそう長くは続かないものだ。わかってはいたのだが彼のビザが7月で、もう切れてしまう。自分の国に返り、働くという当初の目的を果たさなくてはならないのだ。

6ヶ月というのもあっという間だった。もう帰ってしまうなんてちょっと信じられないままだが、浅草はお気に入りのイタリアンレストラン、ジャルディーノ(ここは時々カメラテストのサンプルにも使わせていただいているのでご存知の方もおおいかもしれない)でさよならパーティを開くことになった。それで少し前に待ち合わせして浅草散歩ということになったのだ。当然浅草寺の下で、こんな写真を撮らなくては、いけないだろう。大いなるステレオタイプというヤツだ。

李君。ありがとう。韓国でもきっと君は頑張ってしまう。だからあんまり無理はするな、といって送り出したい。ご機嫌よう。

中部電塾

ほとんど一年ぶりの中部電塾に参加させてもらった。懐かしい顔もあるし、新しい顔も散見する。早川塾長、永嶋氏の後を受けての一日Photoshop 教室ということで呼ばれたのだが、このお二人の後で今更私に何ができるだろう、との思いが強い。何しろ、先人が先人だ。おまけに何を聞きたいのか、どこに興味があるのかわからないのだ。(一年のブランクは恐ろしい)そこで一計を案じた。電塾にならって無理やり自己主張、自己紹介の時間を多くとるように仕向けた。まず運営委員に自己紹介をお願いする。(彼らの自己紹介は結構自己主張になり、長引くのは知っている)途中で私が割り込み、私という人間を知っていただくためにこってりと自己紹介をする。当然、参加者の方々も思っていなかったことまでくちにする。それは、私にとっては情報の宝庫だ。何が問題なのか、どういいった事で電塾に参加したのか、今何を一番の問題にしているのか、そのあたりが手に取るように理解出来るからだ。結果として、長年電塾に参加してくださっている方々よりも、今デジタルを始めた方々を対象にお話をしたほうが良かろうという結論に落ち付いた。
 私は結果的にはこれで良かったと思っている。食いたりなく感じられた方々も多くいたと思う。中部電塾の運営委員のほとんどはいい加減にこんなことを卒業しているのだもの。でも新規の参加者に対していきなりとんでもないことをいっても始まらない。中部電塾の中にも、温度差、進み方の差は存在するのだもの。私自身、今更のように基本を確認するようなつもりでお話を開始した。これといったテクニックもない。トーンカーブの奥義に迫るようなお話もなし。ひたすら、[環境設定]のそれぞれの意味と色相・彩度のダイアログの使用法、シャープネスの扱い方に終始した。私達はテクニックを学ぶ前に、どうありたいか、どのような映像を眼前に展開したいか、という基本的な問題に立ち返るべきではないだろうか?

話を始めてから、1時間もたったころに、そういう思いはさらに加速した。今まで私を含めて、どんなけ基本を無視してきたのだろう。もちろんそのさまざまなシーン毎に対応の仕方の違いはあったのだろうが。すでにPhotoshop を使いこなしていると感じている方がにも改めて確認する事は必要なのではないだろうか?
カラーマネージメントが目指すもの。プロファイルができること。インプットプロファイルとアウトプットプロファイルと、汎用プロファイルが指示すものの違い。カメラマンとデザイナーの立場の違いによるカラー設定の食い違い(実は運用法においては同じもの)。そのあたりに重点を置いて解説したつもりだ。今回思わず、シャープネスの取り扱い方について、新しい発見をした(というか解説の仕方についてだけれども)。ターゲットをRGBにするか、CMYKにするかでおおきくその方法論、意味が違うことだ。十分に伝わったかどうか、自信はないが、初めてこの件について言及したような気がするし、おおきな収穫はであったと思う。佐々木氏から的確な質問があり、それにお答えすることで、何とか真意を伝えることが出来たような気がする。

長年、こんな事をやっていると、私クラスの人間でも、常に新しい発見を前面に出し、どうだ驚いたろう、とやらねばならない気がしてくる。でもそれは違うのだ。今日の中部電塾はそんな気持ちにさせてくれた電塾だった。自分自身、基礎を確認し、カメラマン(写真家?)は何をして我が表現とするべきか、改めて考えさせられた良い機会だったと思う。
事細かに書きつなれる事はできないが、お話をしているうちに、アクロバティックな画像処理よりも、表現したいもの対する心構え、とくに色彩論に還っていく自分を見つけた一日だった。その意味でも今回私を呼んでくれた、中部電塾の運営委員に対して感謝しなくてはなるまい。

私達はデジタル化されたおかげで、写真の中の構図や感性だけでなく、色彩感覚をもこの手に取り戻すことがで来たのだもの。これを暁光と言わずして、なんと表現するべきだろう。

5時以降の打ち上げに続き新幹線駅近くの宴会は深夜まで続き、危うく新幹線に乗り損なうところだった。(今新幹線の中でこれを書いているので、まあ、間に合った訳だが)気持ちの高ぶりを一人で押さえつつ、良い日だったな、と回想している。

「ACEでするローコストカラーマッチング実践講座」


Photoshop が6.0となり、その善し悪しはともかく、常に入力側と出力側の二つのプロファイルを参照し、「一時的なデフォルト」としての作業用に色空間をもち、「カラーマネージメント」をはじめて矛盾無く実行できるアプリケーションの登場した。そのころのタイミングとしてカラマネツールの普及があり、カメラマンと製版側との対話が始まり、ここにきて一気にカラーマネージメントは現実味を帯びてきた。しかし、デザイナーの方々にとっては世の中で叫ばれてはいるものの、実態のわからない「カラー マネージメント」であり、今まで幾度となく浮かんでは消えていった、どうやら「実行不可能なもの」であったらしい。さらにいえば、現状でなんとかなっているのになぜそんなややこしいことをしなくてはならんのだ、といわれたこともある。デザイナーさんの存在は、カメラマンにとって、色彩を正しく伝えていくための方法論を、叫べどお願いすれど、なかなか理解してもらえない頭痛の種でもあったのだ。(いやいや、全てのカメラマンがそれほどきちんとしている訳ではないし、全てのデザイナーさんが理解していなかった訳でもないのですが)

カラーマネージメントがシステムとして運用されるためには是非ともデザイナーさんたちの前向きな参加が必要だ、ということが私達の間で話題になって久しいが、その方法となると、全くの無策だった。

そんな時に関西で活躍しておられるデザイナーさんがLabを訪問された。上高地さんという方で彼の講演にMonaco OPTIX のデモンストレーションを含めたいということだった。そして、「ACEでするローコストカラーマッチング実践講座」というテキストをお持ちになった。
この本を一読して、待望の書がついに上梓された、と感じまた。カラーマネージメントの本質、そのシステムの基礎(といっても理解しやすい範囲で)からその用法について初めて具体的に書かれたものであり、特筆するべきは全て、理屈に走らずに、実行可能な形で解説されていることだ。また、読んでみると一見理解が難しそうなカラーマネージメントシステムの理論もわかりやすく、具体的な例を挙げて解説していますので理解することにも役立つにちがいない。

もちろんカメラマンとデザイナーという立場の違いによる理解、運用法において、カラー設定などに個人的には異論はあるものの、理想に縛られたり、現在は実現不可能な空論に言葉を費やすことなく、実際の運用において現実的な方法論を明快に展開している。私自身、拝読していて、あ、そういう解決法があったのか、と目からうろこが落ちる思いをすることも多々あった。

本書はデザイナーさんにとっては、カラーマネージメントの理想と現実のギャップを埋めてくれる初めての本となるのではないだろうか。また私達カメラマンにとってもこの方法論が定着することで安心してAdobeRGBというカラースペースでデータをお渡しすることが出来るようになるのだ。そういった意味においても歓迎すべき本の登場といえる。

著者も後書きに書いていますが、あえて、「カラーマネージメントシステム」ではなく、「カラーマチング」という表現を使っている。現実にはカラーマネージメントは、いまだ発展途上であり、理想的なところまで行けないけれども実用範囲としてここまで出来るんだ、という表現でとらえています。今後さらに発展していく技術(理想に現実がどんどん追いついていく)のうち、今、使える部分を有効に、しかもAdobeという共通フォーマットを使用することにより、汎用的な方法論を展開していることに大いに共感を覚えました。

何はともあれ、全ての基本は測定器によるモニタキャリブレーション。この本にはそう書いてあった。