サーバーの大移動 その5 最終章 handy monitor

 古い画像を開いていくと98年ころから、handy monitorというプロファイルが埋め込まれている。これはもちろん、Monacoを使い始めた頃のことで、自分で作ったモニタのプロファイルだ。それ以前のデータにはもちろんそんなものは存在していない。すこしほっとしたのはそれ以前のデータもAppleRGBとして開くと、それなりに見ることの出来るデータに仕上がっていたことだ。もちろん中にはナンジャこりゃ?というデータも存在する。特に色補正をかけた物たちがそうだ。色相・彩度の観念を理解する以前(いや、いまだって聞きかじっている程度なのだが)のデータを見ると穴があったら入くなる。
 ま、そこまで古いデータは致し方ないとして、問題は98年ころの私のhandy monitorというプロファイルが埋め込まれたデータだ。なんと、あたしはこのプロファイルを埋め込んでお客様にデータを渡していたのだ。(周囲のPhotoshop がv4かv5の時代だ!)気になってこのプロファイルを開いてみて、AppleRGBとほとんど相似形をしている事を確認して一安心。当時は「sRGBは印刷には使えない」といわれ……あたしも言ってた……ほとんどのオペレーターはAppleRGBかモニタRGBを使用していた。つまりプロファイルを破棄されても、AppleRGBで開かれていれば、大きな問題なかったということになる。考えてみれば当然でMonacoで、わたしが使用しているモニタを測色しているのだもの。AppleRGBとPhotoshop 4.0以前のモニタRGB(これはまさしく個人のモニタを参照したカラースペースだといえるがほとんどのモニタの特性が似通っているため、最終的にはAppleRGBに収束させても差し支えなかったのだろう)も私が作ったプロファイルもよくにていたために、結果論としては問題なかったのだろう。

 たしかにAppleRGBで開けば、当時の思い出とともに、確かこんな色だったよなあという状態で開いてくれた。(良かった良かった)でもこれってとんでもないエゴイスティックなデータの渡し方だ。(カラーマネージメントが正しく機能していれば、絶対だめ、ってわけでも無いだろうが、“受け渡されるプロファイルはパブリックなものであるべき”というプロファイルのあり方を考えると、やはりペケだとおもう。)これは私のモニタのある時期の状態(とんでもなくローカル)を他人に押し付けたことになる。(しかも継時変化を起こして色空間のデータに変化があってももプロファイルの名前は一緒)幸いモニタの状態がさほど悪くなかったことや、やはりAppleRGBが主流だったことに助けられた、あくまで偶然にこの結果になっっていたのだろうが、とんでもないことをやっていたものだ。

 そして1999年以降はAdobeRGBのタグが付き出すようになった。善かれと思っての結論だったのだが、当時は時期尚早だった気がする。当然デザイナーさんとは「色空間のすり合わせ」はもちろんしたのが、先方はそれを徹底することは出来なかったようだ。(当時の印刷上がりがそれを示している)しばらくして、社内は AdobeRGBだが、外にでるデータは最後にプロファイル変換を施し、AppleRGBで納品するようになった。悲しいことにその頃はPhotoshop のデフォルトがsRGBになり、またガンマ値の違いが問題になる。2001年ころから外に出すデータのデフォルトをsRGBに切り替えた。この時の問題はAdobeRGB to sRGB(AppleRGBでも同じだが)のプロファイル変換は最低限のマナーだと思うのだが、これとてデータにダメージを与えてしまうのは否めない。(AdobeRGB to AppleRGBのプロファイル変換時にグリーンとその周辺がねじれてしまう)しかし AdobeRGBをsRGBやAppleRGBとして開かれることを思えばこの程度のダメージは黙認するべき問題だったのではないだろうか? 当時はまだAdobeRGBは「パブリックなカラースペース」だとは言い難かったのだ。 

 Photoshop が6.0となり、各ドライバもプロファイルを理解するようになりカラーマネージメントが実用的なものになり出したのはつい最近のことだ。もう AdobeRGBだsRGBだと騒ぐ必要もないのだろう。ディスプレイがキャリブレーションされ、カラー設定が「元画像のプロファイルを参照」するように設定されていれば大元のプロファイルは何だっていいのだ。(プロファイルの重さを考えると AdobeRGBやsRGBの方が格段に軽いので実用的なのは事実)それでもまだ、カラースペース、カラーマネージメントの理解不足によるトラブルは後を絶たない。本来カラーマネージメントなどはバックグラウンドで働き、そのスイッチを入れたら、後はオペレーターが何も気にしなくてもよい、というものにならなくては意味がないと思うのだ。裏返せばグローバルスタンダードにならなくてはその存在意義が危うくなってしまうという…その基盤を確保してこそ、生きるシステムだと認識する今日この頃である。

 カラマネの第一義の目標は標準化であり、基準化で、いつでもどこでも、だれでも、一定のカラースペース基準値を参照して作業するということを目標としているわけで、実はほかに何も無いのだ。ところが、本来アドバンスなところにあるはずの、さらに高みに上るための個性化、個人的プロファイルの応用法という問題をつい同時に取り上げてしまうために混乱がおこっている。(よく会議で紛糾するほとんどはこういった原因が多い気がする。どちらも間違っていないのだが、立場、基盤としているところが食い違っているのだ)現状では自分がやってきたことも含めてカラーマネージメントを語る、あるいは実践する際に基本とする標準化とアドバンスであるべき、プロファイルの個性化が同時に顕現しているのが混乱の原因であるような気がする。こんな混乱はさっさと終わらせてしまいたいものだ。