デジタルのメリット

一年ほど前までよく一緒にデジタルの勉強会を開いた仲間のひとりから、デジタルのメリットととは一体ナンだろうという質問を受けました。
撮影する側のメリットとお客様の受け取るメリットにかなりの隔たりを感じてしまう、ということで、(たとえば、建築撮影などで、カメラマンは仕上がりを確認出来たり、撮影ミスを減らすことが出来る事がメリットととらえるが、お客様は(あるいは営業マンは時間的な早さがメリットととらえている節がある、ということを言っていました。)改めて大きな視点で、将来を見据えて、デジタルのメリットを考えてみたいというのです。

デジタルがまさに普及しようとしているいまだからこそ、個人的なやり取りにせずに、あえてオープンな場で考えてみたいと思います。

制作側のメリットとして
仕事の効率化
フィルム、現像、インスタントフィルムの経費圧縮
テスト現像、本現像の時間短縮
仕上がりを追及することが可能
カメラマンにクリエイターとしての仕事が帰ってきたこと
デメリットとして
データ仕上げのためにかかる時間の増加
コンピュータ、周辺機器、デジタルカメラ、果ては製版の知識までも新たに学習しなくてはならない事柄の多さ、煩雑さ。
加えてそれら機材の購入のためにかかる金銭的負担

お客様のメリットとして
時間短縮
経費節減
再利用の簡便化
デメリットとして
知識、経験の不足による仕上がりの不安定さ

しかしほとんどのメリットとデメリットは裏腹な一面も持っており、作業時間が増えたことはある意味自分がとれる金額を増やせるチャンスだとも言えるのではないだろうか?新しい知識は吸収することに、喜びを感じることもある。また、メリットやデメリットの意味を勘違いしている向きも多く存在しているのではないのでしょうか?

たとえばフィルム、現像、インスタントフィルムの経費の圧縮は新たな機材購入によりほとんど相殺されるでしょう。現像待ちの時間も、データ整理、書きだし、に相殺さるか、人によってはもっと時間がかかっているかもしれません。そうするとデジタルのメリットってなくなってしまうように感じる向きもいらっしゃるかもしれない。裏を返せばデメリットも相殺されている訳ですし、デジタルになって、ここまで写真を追い込むことが出来るようになった、というシーンはかなり多いのは事実です。
また、何といっても自分が暗室作業を取り戻すことが出来たこと、これは他の何者にも変え難い喜びです。私はマシンの前にいることがちっとも苦ではないのです。むしろ写真をフィニッシュしている喜びの方が大きいと感じます。(もちろん、割り切った仕事用の自動処理システムもそれなりに完備しているつもりであり、何でもかんでも時間をかけている訳ではないのです)

それでも制作側のメリットなどは私たちには分かりやすいのですが、勘違い、あるいは思い込みをしているクライアントさんにも正しいメリットを、そしてデジタル工程の活用方を提案するのも大事なことではないかと思っています。

特に金銭面でのメリットを簡単にフィルムを使わないから安い、と思っていらっしゃるクライアントさんに(昔のデジカメの草分けがこういったメリットの側面だけを強調して販売したって事もあるんですが)機材、知識の投資にどれだけのお金と時間がかる事か?ということも理解していただくべきです。そのうえで経費の削減はトータルバランスの中にこそあるということも理解していただくべきです。
全体をみた時に、不要な工程が圧縮され、(写真の再利用の度に新たにスキャニング工程が発生すること、デュープを制作するためにどれだけの時間とお金がかかっていたか?写真であると撮影後に何らかの方法で物理的に届けなくてはならなかったこと、製作時だけでなく、こんなことも数え上げればきりがないでしょう)その仕事、とそれに付随するすべてのもろもろを合わせて考えるべきでしょう。こういったことをクライアントさんにご説明するのも私達の勤めかもしれません。

 時間的な問題も、確かに納品が早いことはメリットかもしれません。しかし、先に制作側のメリット、デメリットのところでも上げたように実際は撮影から納品まではさほどに劇的に早くなる訳ではないのです。(画像の確認、OKのもらえ方などに関してはたしかに劇的です)現像所のデリバリーが充実していれば土日の問題さえ除けばはるかに銀塩の方がカメラマンにとっては楽かもしれません。(土日も仕事している私にとっては大きな問題ですが)本当のメリットは、たとえば、私はよくあるの建築を引き合いに出しますと、
・ 工期が遅れて完成が金曜日になった。でもデジタルは撮影して月曜日の朝に納品出来る。つまり撮影をぎりぎりまで延ばすことも可能。
・ キョウジ屋さんが壁紙を間違えてはってしまった。直す暇が無いけど何とかする
・ まだコンセントがはまっていないけど大丈夫
・ 鏡を多用した部屋の撮影は撮影後に製版で処理しなくてはいけなかった(高いし時間もかかる)
・ 撮影の時間を短縮出来るため、必要なコーディネーター、スタッフの延べ数が格段に減らせる
・ 機材を減らせるため躯体が傷つく可能性が減る
・ 粗画像はその場で渡してもらえる
・ その後に渡されたデータは差し替え、ソフトウエア分解のみで色校に入れる。つまりデザイナーー製版ーまたデザイナーといういったりきたりも無くなる
・ 撮影後データ納品時にバラ校とほとんど同質な色見本を確認出来る
・ 最後の最後、土壇場にに追加された撮影も何とかなっちゃう。

 かなり細かいですが、これらはすべて現実です。デジタルだからこそ、工程を整理し、仕上がりを早期に想定出来るようなシステムを構築出来るのが最も大きなメリットなのです。こういったことを提案し、お客様に納得して私たちを利用していただくべきだと思うのです。

 しかし、メリット、デメリットだけでは語り切れない事実を私は感じます。いきなり大上段に構えてしまいますが、それは、巨視的に言って、もはやデジタルは時代の要請である、と思っています。すでに有害な成分を垂れ流すアナログ工程は地球環境をかんがみるに今後減少することはあれ、増加させる訳には行かないのです。コマーシャル、報道など、写真家のみならず、製版、印刷に携わる私たちの仕事が地球を汚染している現実を見過ごす訳にはいかないでしょう。特に処理数の多い私たちコマーシャル(ポジデユープなどを含めて)に携わる人間でしたら、なおさらでしょう。今後現像所は増やすことも難しいのです(ヨ